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労務問題のQ&A

Q1  副業と懲戒処分・時間外手当

A社は、従業員に対して、兼業を禁止しています。A社の始業時間は9時で、終業時間は18時(休憩時間1時間)です。この度、従業員Xが終業時間後にB社で兼業を始めたことが判明しました。A社は、兼業禁止規定の違反としてXを懲戒処分とすることはできますか。A社とB社の労働時間を通算すると法定労働時間を超えますが、A社とB社のどちらが時間外労働手当を支払う必要がありますか。

A1

 兼業禁止規定に違反したのみでは懲戒処分はできません。
 労働時間を通算して法定労働時間を超える場合、
 原則として後から雇用契約を締結したB社が時間外手当を支払う義務があり、A社にはありません。

 

<解説>

1 業禁止規定違反と懲戒処分

 就業規則で「会社の許可なく社外の業務に従事しまたは自ら事業を行ってはならない。」と規定し、
 これに違反した場合を懲戒事由に定めていることがあります。
 しかし、従業員の職場外の職務以外の行為については私生活の自由や職業選択の自由の要請があることから、
 兼業の懲戒事由該当性は厳格に判断する必要があります。
 裁判例からみると、兼業許可制の規定が合理的に定められている場合であっても、
 次のような場合が違反類型とされています。

①同業他社等の競業関係にある企業で就労する場合
②自社の就業時間と両立しない就労をする場合
③就業時間外または休日において継続的に相当時間就労することにより
 自社に対する労務の提供に支障が生じる場合

 したがって、正社員が終業時間後に兼業を行った場合、
 上記の①から③の事情があれば、不許可とすることができるが、
 そうでない場合は兼業禁止規定違反とはなりません。
 その場合に無許可兼業を理由とする懲戒処分を行えば、懲戒処分は権利濫用により無効となります。

 

2 兼業と時間外手当

 厚労省の「副業・兼業の促進に関するガイドライン」Q&Aでは、一般的には、
 通算により法定労働時間を超えることになる所定労働時間を定めた労働契約を時間的に後から締結した使用者が
 契約締結に当たって、当該労働者が他の事業場で労働していることを確認したうえで契約を締結すべきことから、
 時間外手当の支払義務を負うことになるとしています。
 したがって、本件では、B社が時間外手当の支払義務を負うことになります。

Q2 就業規則作成・変更に関する意見書

会社が就業規則の作成や変更をする場合、使用者は当該事業場の過半数代表(過半数組合、これが存在しない場合は労働者の過半数を代表する者)の意見を聴取しなければならないとされている(労基法90条1項)。そこで、労働者の過半数代表者に意見を聴取したところ、過半数に満たない組合の代表者と連名で作成した意見書を提出してきた。受理しなければならないか。

A2

受理する必要はなく、労働者の過半数代表の意見を記した書面の提出を求めることができる。

 

<解説>
1 就業規則の作成や変更をする場合、当該事業場の過半数代表の意見を聴取する必要があり、
  就業規則届出の際には、過半数代表の意見を記した書面を添付する必要があります(労基法90条2項)。
  したがって、過半数未満の組合の意見を記した書面の添付は義務付けられていませんし、
  また、当該組合も使用者に対して当該書面の提出を主張しうる権利もありません。
2 仮に、過半数代表と過半数未満組合の意見が同じであったにしても、
  当該書面に過半数未満組合の名義を出す理由はありません。もとより、過半数未満組合が、
  当該書面以外の書面で使用者に対して意見を表明することは自由ですが、
  就業規則届出の際に添付する必要がある書面として受領を強制されるものではありません。
3 使用者が、過半数代表とともに過半数未満組合の名義の書面の提出を黙認していると、
  組合の既得権として、使用者がこれを認めたことになり、
  今後、過半数未満組合の同意なく変更できなくなる可能性があることに注意すべきです。

Q3 社宅の立ち退き

会社は、所有者から社宅として賃貸した部屋を社員Aに有料で使用させていたが、所有者から建物の老朽化に伴う立ち退き請求を受け、立退料43万4000円の支払と引き換えに立ち退きに合意した。
Aは引越費用として25万円を支出した。Aは、本件立退料を受け取ることができるか。引越費用はA負担か。

A3

会社が立退料を受け取ることができる。Aは会社に対して引越費用の支払を請求できる。 

 

<解説>
1 社宅の法的性質
会社と社員との社宅の使用関係は画一的に決定されるものではなく、その契約の趣旨によって決まります。
社宅の使用料が通常の家賃相場と同等であれば、社宅契約は賃貸借契約とされる傾向にあります。
これに対して、社宅の使用料が通常の家賃相場より相当低額である場合は、社員に対する福利厚生策の一環として、
社宅管理規程によって規律される無名契約とされます。
その場合は借地借家法の適用はないとされています。本件では、使用料の額は不明ですが、
社宅は相場の賃料よりも低いことが通常ですので、無名契約を前提として説明します。

 

2 立退料はAが取得するのか。
現実に立退くのはAですから、Aが立退料を取得してもよいようにも思えます。
しかし、所有者と賃貸借契約を締結したのは会社であり、
契約上立ち退き義務と立退料が対価関係に立つことから、立退料を取得するのは会社です。
Aは、所有者との関係では、直接の契約関係には立たず、会社の履行補助者の扱いとされます。
したがって、Aは所有者に対して立退料を請求することはできません。
また、Aと会社の関係は、社宅管理規程で規律されることから、
同規程に立退料につき定めがある場合以外は会社に対しても立退料を請求することはできません。

 

3 引越費用はAの負担か。
Aと会社の関係が社宅管理規程で規律されることを前提とすれば、
引越費用の負担も社宅管理規程によることになります。
それが明確ではない場合は、会社が立退義務を負うことから、
引越費用も会社が負担すると考えるべきでしょう。実質的にも、本件は、①Aが任意で立退いたケース、
②Aに帰責性があり立退きを要求されたケースのいずれにも該当しませんので、
Aに引越費用を負担させることは理由がないと考えます。
したがって、Aは会社に立替えた引越費用の返還を請求することができます。

Q4 試用期間

当社では、就業規則で試用期間を3か月として、試用期間中に社員として不適格と判断された者は本採用をしないと規定されています。この度、試用期間中の社員で、「正当な理由なく無断欠勤を3日」続けた者がおりました。これを理由に本採用しないと判断することはできますか。

A4

無断欠勤を3日間継続したことを理由として本採用しない(=解雇)ことは、相当性を欠き、
違法とされる公算が高い。改善の機会を与えても無断欠勤を反復する場合は、
本採用拒否が正当と判断される可能性が高い。

 

<解説>

1.試用期間の位置づけ
試用期間は、新入社員の従業員としての適格性を判断するための期間であり、OJTによる判断で、
不適格の従業員を解雇する制度です。本件で本採用しないといっているのは、会社による解雇を意味します。

 

2.試用期間の長さ
試用期間は一般的に3か月から6か月とされることが多いようです。試用期間の長さには法規制はありませんが、
試用期間は従業員の地位が不安定であることから、合理性のない期間は公序良俗違反として無効とされます。

 

3.従業員の適格性の判断
試用期間中でも従業員と使用者間には労働契約が成立していますが、従業員の適格性判断の期間であることから、
使用者に通常の解雇よりも広い解約権が与えられています。法的には、試用期間は、
解約権が留保された労働契約であり、本採用拒否は留保された解約権の行使です。
したがって、留保された解約権の趣旨に合致する客観的合理性と相当性が必要となります(労契法16条)。
具体的には、試用期間中の勤務等により、使用者が当初知りえなかった事実が判明し、
今後の雇用継続が不適当と判断されることが必要です。

 

4.無断欠勤3日について
試用期間は適格性判断の期間ですが、そもそも適格性を判断する期間として3日は短すぎます。
また、無断欠勤3日で将来の雇用継続において大きな支障になると判断することも困難です。
試用期間は、適格性の判断期間であると同時に新入社員に対する教育の期間でもあります。
新入社員の勤務態度の不良に対しては、使用者による教育指導により、その改善を図る機会を与えるべきです。
使用者が教育指導をすることなく、無断欠勤が3日続いたことのみを理由として本採用を拒否した場合、
解雇の相当性を欠くとして、違法とされます。

Q5 年次有給休暇の時間単位取得

時間単位の年次有給休暇制度を導入しています。年休での1日の時間数は8時間としています。
①7時間の年休取得を請求する労働者に1日単位の年休に変更させることは可能ですか。
②労使協定で、取得できない時間帯を定めることはできますか

A5

①時季変更権の行使に当たらず、認められない。
②時季変更権の行使は個別的に検討されるので予め労使協定に定めることはできない。

 

<解説>

1.事業場の過半数代表との労使協定に基づき、1年に5日の範囲内で、年休の時間単位の取得が認められます(労基法39条4項)。


2.事業場の過半数代表との労使協定で定める内容は次のとおりです(労規則24条の4)。
 (1)時間単位の年休を与えうる労働者の範囲
 (2)時間単位の年休として与えうる年休の日数(5日以内)
 (3)年休の日数について1日の時間数(1日の所定労働時間を下回らないことが必要)
 (4)1時間以外の時間を単位として年休を与える場合はその時間数(1日の所定労働時間に満たないことが必要)

 

3.時間単位の年休も使用者の時季指定権の対象となります(労基法39条5項)。
しかし、設問①のように時間単位の年休取得の請求に対して、時間単位で時季変更するのでなく、
1日単位での年休の取得に変更することは、時季変更には当たらず、認められません。

 

4.使用者は、年休取得の請求に対して、事業の正常な運営が妨げられる場合に時季変更権を行使できます。
しかし、事業の正常な運営が妨げられるかどうかの判断は、労働者の具体的な年休請求に対して
個別具体的に客観的に判断されるものですから、予め労使協定で、取得できない時間帯を定めること、
所定労働時間の途中の時間単位年休の取得を制限すること、
1日において取得することができる時間単位年休の時間数を制限すること等は認められません。

Q6 コロナ感染症とワクチン接種の義務付け

当社は、食品関連の業務をしており、デパートの食品売場や商業施設に従業員が出入りしています。取引先からはワクチン接種済みの従業員の出入りを強く希望されています。そこで、従業員に対し、ワクチン接種を義務付けることは可能でしょうか。また、ワクチン接種に応じない従業員を配置転換することは可能でしょうか。

A6 

従業員の意思にかかわらず、ワクチン接種を義務付けることはできないが、業務上の必要性から、ワクチン接種を行わない従業員を配転することは可能。 

 

<解説>

  1. 日本経済新聞によると、コロナウイルス感染者のうち、
    2回ワクチン接種を受けた後の感染者の割合はワクチン未接種者感染者の15分の1とのことです。
    したがって、貴社が顧客・取引先に対して安心感を与えるために
    従業員に対するワクチン接種の義務化をお考えになることは、尤もと思われます
     
  2. 予防接種法はコロナワクチン接種にも適用されますが、
    接種を受けるか受けないかは国民の意思によるとされており、
    予防接種の対象者は、予防接種を受けるべき努力義務があるとされ、
    必ず接種しなければならないとはされてはいません。
    アレルギー体質や副反応による健康被害等から接種を希望しないのであれば受ける必要はありません。
    したがって、使用者が就業規則でコロナワクチン接種を義務付けることはできません。
     
  3. しかし、ワクチン接種の努力義務は認められているので、
    使用者は、一定の節度を持って、ワクチン接種をすることを勧奨することは可能です。
    従業員が使用者の勧奨にしたがって、自らの意思でワクチン接種をうけることに合意した場合は
    違法となるものではありませんから、貴社も従業員の合意を得てワクチン接種を受けてもらうことが適切な対応と考えます。
    ただし、従業員がワクチン接種を拒否する明確な意思を表示したのに勧奨を継続することは、
    自己決定権の侵害として違法とされる恐れがあることから注意が必要です。
     
  4. それでは、従業員がワクチン接種を拒否する場合、配転命令権のある使用者が当該従業員を配置転換することは可能でしょうか。
    最高裁東亜ペイント事件判決(最二小判昭和61.7.14)は、配転命令権の行使が権利濫用に当たる場合として、①配転命令に業務上の必要性がない場合、または業務上の必要性がある場合でも、②他の不当な動機・目的をもってされた場合、もしくは③労働者に通常甘受すべき程度を著しく超えた不利益を負わせるものであるときを挙げています。貴社の配置転換は、ワクチン接種を受けていない従業員との接触でクラスター等の発生を防止したい取引先の強い希望によって行うものですから業務上の必要性は強く、①の要件は充たすと考えます。②の要件について、ワクチン接種を受けないことを理由にする不利益処分であるとして処分の無効を主張する見解があります。しかし、貴社の配置転換は、ワクチン接種を受けないことに対する報復といった不当な動機・目的を持ったものではありません。③の要件についても、当該従業員に対する配置転換が、職業上ないし生活上、通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものでない限り、権利濫用とはいえません。
    したがって、貴社が、本件に関して配置転換により、取引先に対応することは十分に可能と考えます。

Q7 コロナ感染症とテレワーク

新型コロナウイルス感染症(無症状の場合)で自宅療養中の従業員がテレワークで業務をすることは可能か。

A7

主治医や産業医の意見を踏まえてテレワークを命じることは可能と考える。

 

<意見>
感染症法18条2項によると、新型コロナウイルス感染症の無症状病原体保有者は、
厚生労働省令で定める業務に、感染のおそれがなくなるまでの期間従事してはならないと規定しています。
感染のおそれがあるので「業務に従事してはならない」という趣旨は、
感染防止の点から職場への出勤を禁止するという意味と理解できます。
しかし、テレワークにより職場への出勤と業務への従事の結びつきが切断されると、
職場に出勤せず、業務に従事することが可能となります。
そうであれば、新型コロナウイルス感染症を発症していても無症状の場合には、
テレワークによる業務に従事することを命じることは可能となります。
ただし、会社が無制限に業務を命じることはできません。
新型コロナウイルス感染症による心身の負担には個人差があることから、
テレワークによる業務を命じるに当たっても業務によって症状を悪化させること等がないように
主治医や産業医等の意見を踏まえて従業員に過度な負担とならないように
配慮した業務内容とすることが安全配慮義務の観点からも必要です。