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信託銀行の行う遺言信託の問題点

 近年、TVCMなどでも信託銀行の行う遺言信託業務を耳にすることが多くなっていませんか?もしかすると信託銀行から分厚いパンフレットなどの送付を受けているかもしれませんね。

 この遺言信託とは、あなたが遺言を作るときに遺言執行者として信託銀行を指定しておき、いざ相続が生じたときには遺言執行者として予め指定した信託銀行が遺言に記載されたとおりに財産の分割に関する手続きを行うサービスをいいます。

 あなたが相続に関する法律知識を十分に有していて自分の遺志を安全かつ確実に実現させたいと思っておられるなら信託銀行などに依頼されるメリットは高いと思います。

 しかし漠然と将来の相続に不安があるため遺言書を用意しようかと思っている程度でしたら信託銀行へ行かれる前に専門家である弁護士や税理士に相談されてからでも遅くはないでしょう。

 遺言信託についてのメリット・デメリットについてはHPでも色々書かれておりますから詳細はそちらをご覧いただければ良いかと思いますが、信託銀行も商売ですから依頼した場合には様々な料金が発生することを先ずはご理解ください。

① 信託銀行により細部の違いはあるとは思いますが、遺言信託には遺言書の保管のみを行うコースと遺言の執行を含んだコースがあります。保管のみでしたらわざわざ信託銀行に依頼する意味が乏しいので普通は遺言の執行を含むコースを選択することになるでしょう。

② 遺言内容は財産の状況に応じ、何度か見直しの必要がありますが、その際には別途変更手数料がかかります。

③ 遺言の執行に際しては、当初必要とされる取扱手数料及び毎年発生する年間保管料とは別に財産の価額に応じて執行報酬を信託銀行に支払う必要があります。報酬は財産額によって異なりますが、およそ遺産の1%~1.5%程度が税理士・司法書士手数料などとは別に遺言執行報酬としてかかります。

④ 信託銀行の担当者は数年ごとに変更されますので遺言書作成後、時宜にかなったアドバイスを受けることは難しいと思ってください。

 

 問題は信託銀行を遺言執行者として指定しますと相続発生後、遺言に従って相続登記などの手続きを相続人の意向とは関係なく機械的に進めることになります。

 その結果、次のような事態が発生したケースも実例としてあります。

(ケース1具体例)

相続税の配偶者軽減措置の枠が残っているにもかかわらず、遺言に従って相続登記がされてしまったため約900万円の相続税が増加することとなった。

1.遺産総額 約2億8千万円(うち小規模宅地の評価減 約3,500万円)

2.遺産に係る基礎控除 9千万円

3.相続税額 約1,700万円

 ※ 配偶者の税額軽減の枠1億6千万円のうち約8,000万円のみ使用、相続人間の遺産分割協議次第では約800万円の相続税で済むと見込まれる。

4.遺言執行報酬 約350万円

 

(ケース2具体例)

ケース1とは逆に遺産に係る基礎控除に余裕があったにもかかわらず遺言どおりに妻に全ての遺産を承継させた結果、第2次相続で相続税が発生する結果となった。

1.夫の相続

 ① 遺産総額 約1億500万円(うち小規模宅地の評価減 約4,000万円)

 ② 遺産に係る基礎控除 9千万円

 ③ 相続税額 ゼロ ※ 遺言どおり妻にすべての財産を相続

 ④ 遺言執行報酬 約200万円

2.妻の相続

 ① 遺産総額 約1億2千万円(うち小規模宅地の評価減 約2,500万円)

 ② 遺産に係る基礎控除 5,400万円

 ③ 相続税額 約600万円

 

 これではあなたがよかれと思って行った遺言信託が本来の遺志と異なることになるのではないでしょうか?

 また、最近では事業承継税制など毎年、相続税に関する法令改正が行われており、古い遺言書によった場合、税の優遇措置が受けられない場合も想定されます。

 通常の公正証書遺言の場合、故人の遺志は尊重しますが、相続人が協議によって遺言とは異なる遺産分割を行うことも可能ですし、たとえ信託銀行に依頼するにしてもあなたが予め専門家にアドバイスを受け、十分理解したうえで遺言書を作成された方が良いのではないでしょうか。