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海外裁判所見学記

バンコク(タイ)及びルアンパバーン(ラオス)の裁判所(2025年)

2025年09月08日
その他

 お正月休みを利用して、2025年1月にタイとラオスの裁判所を見学しました。タイとラオスは隣接する国ですが、国家体制も経済・社会状況も全く異なり、これに伴って裁判所にも大きな違いがありました。

<バンコクのラチャダーコート>

写真1 写真1

 2025年1月6日、バンコクのラチャダーコートを見学しました。ガイドさんの説明では、この裁判所は、民事の地方裁判所に当たるそうです。裁判所は5階建ての近代的な建物で、1階には大きな4本の列柱があります(写真1)。 

 1階入り口には、右側にタイ語と英語で取り扱い案件が大きな金文字で記載され、中央には現国王(ラマ10世)の大きな肖像画が掲げられています(写真2)。金文字を見ると、環境訴訟、消費者訴訟、オンライン取引、マネーロンダリング、その他の民事訴訟を取り扱っているようです。ガイドさんの説明では、投資詐欺やオレオレ詐欺はタイでも大きな社会問題になっていて、テレビでもよく報道されるそうです。カンボジア等の国外からタイ国内に電話をかけてくるケースが多いということでした。

写真2 写真2

 タイは、お正月休みは1月2日までで、3日から通常勤務となるそうですが、裁判所は1月3日から15日までは昨年の裁判記録の整理等を行うので裁判はないとのことで、裁判所内は閑散としていました。

 

 1階の入り口でパスポートチェックがあり、館内は撮影禁止となっています。入口を入ったところは大きな吹き抜けとなっており、1階正面の大きな階段の両端にはイタリア政府からラマ5世に贈られた大理石の立派なライオン像があります。また、1階から2階に上がる正面階段の踊り場には、ラマ5世の大きな肖像画と花を飾った立派な祭壇が設けられているのが印象的でした。ラマ5世は、明治天皇と同時代に15歳で即位した国王で、日本の明治維新と対比されるチャクリー改革を通してタイを近代化させ、欧米の植民地化を防いだ名君として知られています。タイ国内のいたるところにタイ国王の肖像画が飾られていますが、タイ国民のラマ5世に対する深い敬愛の念は他の国王と比べても別格のようです。

 

 1階右手にはオンライン取引に関する紛争の受付があり、左手には一般民事事件の受付がありました。1階ロビーには、幾つかのアンケートが掲示されていましたが、そのなかに迅速な裁判のために土日に裁判所が利用できるようにすることについてのアンケートがあり、QRコードから回答できるようになっていました。日本ではこのようなアンケートはないので興味深く、タイでは迅速な裁判が重視されているように思いました。

 誰もいない2階に上がって見学していると、一部ガラスの間仕切りで仕切られた執務室から男性の裁判所職員が出てきました。ガイドさんが、日本の弁護士で裁判所を見学していると説明したので、この階は何があるのか質問したところ、オンラインカジノ、マネーロンダリング、民事訴訟等の各課があると教えてくれました。もっと色々と質問したかったのですが、執務中であり、またガイドさんが裁判用語に詳しくないため、タイの裁判制度の詳細や日本の裁判制度との違いについて専門的な質問ができなかったのは残念でした。

 3階から5階には法廷がありましたが、法廷内は裁判がないため見学することはできませんでした。ただ、4階にイスラム教徒がお祈りをするための部屋があったことは、タイが仏教国であることを考えると意外な気がしました。

 

<ルアンパバーンの裁判所>

 ラオスは正式名称をラオス人民民主共和国と言い、フランスの植民地となった後、第二次世界大戦後の内戦を経て、1975年に王政が廃止され、社会主義体制となったそうです。メコン川の肥沃な大地に恵まれ、農業が盛んですが、2024年のGDPは世界138位で国連が定める世界最貧国の一つとされています。タイのバーツ経済圏に取り込まれ、タイで使用したバーツがラオスでもそのまま使用できました。

 今回初めて訪問するまでラオスについての知識は殆どなく、社会主義国であることも、ルアンパバーンが世界遺産になっていることも知りませんでした。ルアンパバーンは、かつて王国の首都があった、京都のような古い都です。ルアンパバーン(人口約6万人)は、ラオス北部にあるルアンパバーン県(人口45万人)の県庁所在地で、バンコクから直行便で1時間半のところにあります。メコン川に面し、フランス植民地時代の建物と地元住民の木造家屋が混在する独特の雰囲気が人気で、ラオス観光の中心地となっています。ラオスは社会主義国ではあるものの王朝時代から続く仏教が国民の生活に根付いており、ルアンパバーンでは早朝に多数の僧侶が行う托鉢が観光の目玉にもなっています。

 ラオス政府は、近年、観光業に力を入れており、ルアンパバーンには欧米や中国から年間240万人の観光客が訪れるそうです。現在、中国の昆明からルアンパバーンまで新幹線が開通しており、これを利用すれば4時間で行けるので、中国人も沢山見かけました。中国人は中国資本のホテルに泊まることが多いそうです。

 1月10日、ルアンパバーンの裁判所を見学しました。ガイドのSさんの話では、激増する観光客に対応するため、街の中心にあった刑務所や病院は改装されて超高級ホテルとなっているため、公共機関は郊外に移転しているそうです。裁判所もその一つで、街はずれにありました。旅行会社の事前説明では、裁判所の外観しか見学できないということでしたが、Sさんがルアンパバーン在住で、裁判所の職員とも面識があったので、裁判所の昼休みを利用して裁判所職員男女2名の案内で裁判所内部の見学をすることができました。

 裁判所は、それほど大きくはない2階建てのシンメトリーな建物ですが、入口や窓は木製で、ラオス風のオレンジの屋根が印象的です。中央に入口があり、その上の2階バルコニーの壁面に、真ん中に天秤が描かれた裁判所の青い看板が掲げられていました(写真3)。

写真3 写真3

 裁判所内部の撮影は許されませんでしたが、中に入ると、左右に一つずつ法廷がありました。裁判所職員の説明では、刑事法廷と民事法廷だそうです。刑事事件は、麻薬・窃盗・オンライン詐欺が多いそうです。麻薬3kg以上で死刑ということでした。民事事件は、離婚、相続、不動産紛争(二重売買、境界争い)、貸金事件が多いそうです。刑事事件の裁判官3名、民事事件の裁判官3名で、50~60件くらいの事件を抱えているそうですが、見学した日は裁判は開かれておらず、弁護士の仕事だけで生活することはできないそうです。

 Sさんの話では、若者は学校を卒業しても地元での仕事がないので、ゴールデントライアングルに行って、外国人にラオスへの投資を持ちかける等の詐欺の仕事に従事する者が相当いるそうです。

 刑事法廷と民事法廷とも同じ造りで、裁判官の座る席が3つあるだけで、他には殆ど何もない、これまで見たなかで最も簡素な法廷でした。

 社会主義国の裁判所を見学したのは初めてでしたが、刑事事件にはその国特有の犯罪もありますが、民事事件の内容は日本と似たような事件が多く、社会主義国でも人間の紛争はあまり変わらないなあと思いました。

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